ロックンロール戦線異常あり

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ディスクレビュー:クリープハイプ「世界観」後編


ラストスパート!

M11:誰かが吐いた唾が キラキラ輝いてる
アコギをジャガジャガかき鳴らしながら歌われるブルース。肩の力を抜いて純粋に尾崎さんが見たものや思ったことを書いているような印象を受け、先の見えない暗闇の中でわずかな幸せを探し続けていたインディーズ時代の尾崎さんの姿が浮かんでくる。メジャーデビューして人気が出ると中々こういう曲は作りにくくなる気がする。

M12:愛の点滅

シングル曲。リリースされた当初はあまり印象に残らず、「これがシングルか〜」くらいの気持ちでいたけれどアルバムに入って聴いてみると爽やかながらどこか切ない雰囲気や、人の気持ちを信号に例えた上手い歌詞が結構心に響き、今はお気に入りの1曲。
《頭の中では分かってるんだけど赤でも待ちきれなくなって行ってしまうのに どうして青なら安心してしまって大事なことも言えなくなるんだろう》
「わかるーー!」というのが正直な感想。恋愛の難しさ、人の気持ちの複雑さをうまく表現してると思う。ちなみに俺の心はいつでも青信号だぜ!イェア!

M13:リバーシブルー

ひたすら《会いたくない》と繰り返しておいて最後に《そんな気持ちとは真逆の気持ち》と締めるという捻くれっぷり溢れるナンバー。AメロBメロではひたすら「上手く歩けない」自分自身に対するもどかしさが綴られており、爽やかながらどこか鬱屈した雰囲気も漂う曲である。夏が嫌いな身としては、夏の面影を追いかけて1人彷徨っているようなこの曲の歌詞が妙にしっくりくる。

M14:バンド
ラスト曲。尾崎さんがバンドに対する思いを素直に、でもちょっと捻くれた言葉で吐き出した確かな名曲。歌にすることでしか気持ちを伝えられないと自分を嘲笑しつつもあくまで正直にバンドへの愛を伝えようとする尾崎さんの不器用な姿に胸が熱くなる。最終サビ前のアカペラから始まる部分は鳥肌モノ。アウトロの男臭いコーラスも決して美しいものではないが、クリープハイプがこれからもこの4人で歩き続けるという強い意志を感じ、不思議と安心できる曲だ

総評
以上、全14曲。曲調や歌詞についてはこのレビューと同じくほとんど統一性のない、ぐっちゃぐっちゃのアルバムだが、その混沌とした感じがクリープハイプらしさを生み出していると思う。前作が良くも悪くも「良い曲」揃いだったのに比べると今作は、初期にあったかさぶたを弄るようなヒリヒリ感と、前作まであった寄り添うような優しさが遠すぎず近すぎずの距離でうまく共存できてるアルバムだ。長年応援してきた人も最近好きになった人も是非この作品でクリープハイプの、そして尾崎世界観「世界観」に触れてみてほしい。

…そうそう、特典映像のショート短編映画もなかなか見応えがあった。椎木さんの演技には本業の俳優さんには出せない生々しさがあってかなり魅力的だったよ。