続きです。
5.花と虫
故郷を飛び出し広い世界に飛び出した「虫」の姿を描いた物語調の曲。曲中の「虫」が《終わりのない青さが 僕を小さくしていく》と感じたように、新たな世界に飛び出すことで、己の小ささを実感することは誰にでもある。一生の中で何度も出くわす「環境の変化」について、その不安を受け入れながらもそっと背中を押してくれるような応援歌と自分は受け取った(「社会人になる」という明確な環境の変化を最近経験したし)。
自分の世界を守る曲がスピッツでは多いような気がするが、この曲はむしろそこからの離別をはっきりと歌っており、何だか新鮮に感じる。
6.ブービー
夜空を一人ぼっちでふわふわと漂うような、優しい浮遊感が印象的な曲。のっけから《僕はデブリ》なんて歌詞に心奪われたり、《いつもブービー 君が好き》というあまりにシンプルな韻の踏み方ににやけてしまったりと、おだやかな曲ながら初聴きのインパクトは小さくなかった。3分にも満たない短い曲で言葉数も少なめだが、スピッツらしい「なんか引っ掛かる」フレーズが随所に散りばめられている。何だか初期のスピッツの雰囲気も漂っていて、上手く言葉には表せないが好きな曲だ。
7.快速
前の曲とは対照的に初聴きのインパクトは薄めだったが、タイトルに違わないほどよい疾走感がクセになる曲。《君》のいる街へと向かう快速電車の中で、緊張感と高揚感に包まれている姿がはっきりと浮かんできて、なんだかこっちもワクワクしてくる。曲の疾走感に寄り添うような爽やかな女性コーラスは、チェコノーリパブリックのタカハシマイ。前作でも「子グマ!子グマ!」に参加していたが、今回もスピッツの曲との相性は抜群。
8.YM71D
草野マサムネ曰く「読み方はなんでも良い」とのこと。自分は「わいえむなないちでぃー」派。横ノリの洒落た曲だが、歌詞からはなんとなくアブナイ匂いがする。《初めては 怖いけど 指と指 熱を混ぜ合わせよう》《王様は裸です!と 叫びたい夜》なんて言葉で歌われる情景はどこかエロティック。さらに踏み込むと《きまじめで少しサディスティックな 社会の手ふりほどいた》という表現に、「社会」に馴染めないまま「二人ぼっちの世界」に閉じこもる「僕ら」の姿が浮かび上がる。思えば「ロビンソン」で《誰も触れない二人だけの国》を作ろうとしたように、スピッツの曲で歌われる「君と僕」は二人だけの閉じた世界に籠ろうとすることが多い。「YM71D」もまたスピッツがこれまで何度も歌ってきた「二人ぼっちの世界」をテーマにした曲であるように思う。
続きは次回