ー世の中には2種類の人間がいる。『lemon』の「ウェッ」が気になる人間と、気にならない人間だー
2020年8月5日、米津玄師の楽曲がサブスク解禁された。ミスチル、RADWIMPS、スピッツなど日本の音楽界を代表するアーティストがここ1,2年で相次いで解禁する中で、「なかなかこないなあ」と思っていたのだが、その日は急にきた。
今回の解禁によって、遂に日本の音楽業界はサブスク時代の波に完全にのったように感じる。その是非は置いといて(自分は全然いい事だと思うけど)、なにかとガラパゴス的に成長してきたJ-POPシーンにおいて転換点となるかもしれない、とてつもない事態だと思う。
僕自身は米津玄師に対してそこまで特別な思い入れを持っていたわけではない。しかしいざ聴いてみると、そんな自分の日常の中にも当たり前のように彼の曲が流れていたことを思い出した。かつてオタクと腐女子の楽園として君臨した投稿サイト「うごくメモ帳」で『ゴーゴー幽霊船』の手書きPVが幅をきかせていたこと、モテたい奴は大体『アイネクライネ』をカラオケで歌っていたこと、バイト先の有線で『灰色と青』が延々と流れていたこと、『lemon』の「ウェッ」がことあるごとにネタにされていたこと…
デビューしてからというもの、彼の曲は「ヒット曲」として常に僕らの日常に喰い込み続け、いつの間にかJ-POPの勢力図を大きく塗り替えるほどの存在になってしまった。その勢いは「凄まじい」の一言に尽きる。
米津玄師の曲は、決して「分かりやすい曲」ではないと思う。ややこしい演奏、比喩や言葉遊びを絡めた意味を掴みづらい歌詞はかつてボカロP「ハチ」として、一部の界隈にてカリスマ的な人気を誇っていた頃の面影がある。だが彼には、よりたくさんの人に聴いてもらえるよう、その複雑さを世の中向けにチューニングできる圧倒的な柔軟さがあった。この柔軟さに裏打ちされた表現力が彼を名実ともにJ-POPの代表格へと押し上げたように思う。
すごいのは彼の表現力が、作品を重ねるにつれどんどんその幅を広げていることだ。アルバムを順々に聴いていくと、1st「diorama」の頃は出来の良いモノクロデッサン一本で勝負していたのが、作品を経るにつれ様々な色の使い方や絵画技法を自分のものにしていった、そんなイメージが浮かぶ(ジャケットの絵に引っ張られているだけかも)。最新作「STRAY SHEEP」では洒落たポップスから聴かせるバラード、耳にこびりつくような不思議な曲まで、多彩な色を振りまきながら世界を縦横無尽に駆け回る少年のような姿があった。
てなわけですっかり日本の音楽シーンを征服?した彼だが、どうやら次は世界征服を企んでいらしい。最近の彼の活動を見ると、世界規模で人気のオンラインゲーム「Fortnite」内でのイベントやユニクロとのコラボなど、海外に向けて分かりやすく舵を切っているのがよくわかる。今回のサブスク解禁は世界征服へ向けた活動のスタート地点に過ぎなかったのだ。
実際彼の曲がどれだけ海外で受け入れられるのかはよくわからないが、何かと閉鎖的な日本の音楽シーンに風穴が開くような結果になれば面白いと思う。常日頃から、日本の音楽はもっと世界にアピールしても良いと思っているので。
とりあえず今月は米津玄師強化月間とし、これまでのアルバムを振り返りながら彼の世界に浸りたいと思う。
米津玄師「lemon」の「ウェッ」
— にゃま (@musicamusina) 2020年8月7日
みんな結構気になるのか…