ロックンロール戦線異常あり

好きなものをつらつらと

夜渡りのススメ(YOASOBI、ずとまよ、ヨルシカ)

最近、「夜」を名前につけるアーティスト多くない?

 

J-POPシーンのひとつのムーブメントなのか、「夜」が名前につくアーティストがここ数年で急激にJ-POPシーンに台頭しはじめた。特にYOASOBI、ずっと真夜中でいいのに、ヨルシカの3組については注目され始めた時期が近いのに加え、ネット発、女性ボーカルなど共通している部分が多く、正直…その…区別がつかないことが時々あった。しかも曲名にも「夜」を冠し始めるから余計にややこしい。

今回はその3アーティストを改めてきちんと聞いた感想をまとめた記事。比較してどうのこうのというより、何かと一緒くたにされやすいけど、実はそれぞれ全然違うアーティストのはず!という仮説を検証するのが目的だ。それではどうぞ。

 

YOASOBI

彼女らに関しては曲というより、彼らの台頭による音楽シーンの変化の方が印象深い。CD未発売のアーティストが紅白出場!という事実からは、音楽の聴き方が確実にひとつの転換期を迎えたことをはっきりと感じる

いざ聴いてみると、ものすごく洗練された音楽だなというのが第一の感想。ピッタリとハマって動きようがないパズルの完成品のようなまとまりの良さ。打ち込みによるピアノと四つ打ちがメインのサウンドは、全く無駄がない。人間味がやや希薄な印象も受けたが、そんなのは好みの問題である。

 


YOASOBI「夜に駆ける」 Official Music Video

 

そして『夜に駆ける』や『あの夢をなぞって』から感じるキャッチーさは、決して押し付けがましくないが確かに耳に残る絶妙なバランスで成り立っている。これは間違いなくズバ抜けたポップセンスの賜物であり、社会現象となるほどのヒットになるのも納得。

ネット小説を原作として曲を作っているのも大きな特徴。それこそBUMPの『K』のように曲中で明確な物語が展開されているわけではないが、小説を読むことで曲に込められた真の意味がわかるという、一種の謎解きのような構造はタイアップの新しい形を提示しているように思う。活動形態、音楽の中身どちらを見てもJ-POPのニュースタンダードを作り上げていく存在になるのは間違いない。

THE BOOK

THE BOOK

  • YOASOBI
  • J-Pop
  • ¥2037

 

 ずっと真夜中でいいのに。

2018年、『秒針を噛む』をYouTubeに投稿したことを皮切りに、あれよあれよという間にJ-POPシーン期待の若手として躍り出た音楽ユニット。2021年2月現在までのおよそ2年半の間ですでに3枚のミニアルバムと2枚のフルアルバムをリリースしているという、驚異的なフットワークの軽さを見せつけている。

だからといって決して粗製濫造のきらいは全くなく、曲のクオリティは現在の人気の高さが証明している。ベースがぐいぐい曲を引っ張っていくサウンドは今の音楽としてはそこまで珍しくはないかもしれないが、ギターロックばかり聴いてきた自分にとっては結構新鮮だった。しかし物足りなさは全くなく、特にベースとピアノが互いの熱をぶつけ合うような『お勉強しといてよ』の間奏はギターに負けない迫力がある。

 


ずっと真夜中でいいのに。『お勉強しといてよ』MV(ZUTOMAYO - STUDY ME)

 

凛とした透明感と温かさが同居するボーカルも魅力的。特に「ブレス(息継ぎ)」の破壊力が凄まじい。アー写はイラスト、MVはほとんどがアニメと全体的に二次元的なイメージが強いアーティストだが、このブレスひとつで三次元的な「人肌の温もり」が生まれ、その存在に奥行きが生まれているように感じる。個人的なオススメは『勘ぐれい』の冒頭。ほんの一瞬の小さな息継ぎだけで、曲に一気に引き込まれた。スタイリッシュで自由度の高いサウンドと、安心感のある人肌の温もりが同居したアーティストだと思う。

Gusare

Gusare

  • ZUTOMAYO
  • ロック
  • ¥2546

 

ヨルシカ

ボカロPのn-bunaがボーカリストにsuisを招き結成した音楽ユニット。他の2組と同様ネット音楽発のアーティストだが、意外にも堅実なバンドサウンド。「フォーピースバンドだよ」と言われても信じてしまいそうな、「バンド」としての安定感を強く感じた。

彼らの特徴の一つに「物語性」がある。特にここ数年のアルバムは、全体でひとつのストーリーを表現するコンセプチュアルな作品となっている。そして1曲1曲も物語色が強く、わかりやすい起承転結があるわけではないが、行き場のない苦悩を「先生」にぶつける『ヒッチコック』、喪失感に一抹の希望を見出した「盗作家」の姿を描く『盗作』など、それぞれの曲=世界の中で生きる人々にスポットを当てた、群像劇のような作風が面白い。そしてその主人公が、「誰でもないが誰の心の中にもいる存在」となっていることで、聴く人の共感を呼び起こしている。

 


ヨルシカ - ヒッチコック (MUSIC VIDEO)

 

また曲中で描かれる物語には、どれもその根底に「現実への不満」「ノスタルジー」という二つの要素が横たわっているように感じた。物語の中の世界に思いを馳せることと、思い出に浸ることはどちらも「現実逃避」の側面を持っている。受け入れられない現実に息苦しさを感じた時に、ふと逃げ込めるオアシスのような存在として、ヨルシカの音楽は存在しているように思う。

Plagiarism

Plagiarism

  • Yorushika
  • ロック
  • ¥2241

 

以上、これからのJ-POPシーンを間違い無く牽引するであろう(というかもうしている)3組を紹介した。3組とも出自は似ているが表現方法は少しずつ異なっており、それぞれに違った魅力がある。何かと物思いに耽りがちな夜のお供にいかがでしょうか!