「クールジャパン」という言葉こそ最近聞かなくなったが、相変わらず日本のアイデンティティとして繁栄を極めるアニメカルチャー。もちろんミュージックビデオ界隈も例外ではなく、ネット音楽の隆盛により、顔を出さず二次元の中での活動がメインのアーティストがここ最近でぐっと増えた。
一方で普段顔を出しているアーティストが突如アニメのMVを出すのも面白い。特にアニメ化されたバンドメンバーが出ると、好きな漫画がアニメ化したような特別感があって嬉しくなる。
今回は個人的に好きな「アニメーションのMV」を5本紹介、アニメならではの自由度の高い演出が光る傑作を集めてみました。それではどうぞ!
神聖かまってちゃん『るるちゃんの自殺配信』
ネット発の音楽が現代日本の音楽シーンを席巻する中、その走りと言っても過言ではない重要な存在となった神聖かまってちゃん。全編アニメーションのMVは意外にもこの作品が初めて。
現実と幻想がごっちゃになった世界で躍動するひとりの少女の姿が、様々なタッチで描かれる。全体的にポップな絵柄だが、合間にはタイトル通り死を想起させる場面が幾度も顔を出し、神聖かまってちゃんの持ち味である「明るい狂気」が表現されている。
Twitterのタイムラインのように表示される歌詞も特徴的。誰にも省みられることなくただただ流れていく言葉の数々と、申し訳程度の「いいね」と「リツイート」が、社会から首の皮一枚で繋ぎ止められた少女の不安定な孤独を強調しているように感じる。
公開から1年足らずで既に2,500万回以上再生されている神聖かまってちゃんの代表曲のひとつ。インターネットを拠点にカルトな人気を保ち続けていたバンドがここまで大きくなったのは、ついに「時代が追いついた」ということなのだろうか。コロナ禍で孤独を感じる人が増えた中で、彼らの曲がひとつの拠り所になっているような、そんな気がしている。
くるり『琥珀色の街、上海蟹の朝』
ジャンルに囚われない音楽を作り続けるくるりが、ヒップホップやブラックミュージックを大胆に取り入れた2016年の楽曲。『Remember me』以来のアニメ作品となったMVでは、タイの漫画家ウィスット・ポンニミットによる可愛らしい絵柄によりスケールのでっかいボーイミーツガールが展開される。
小さな飛行船で街を去る女の子と、それを車で追う男の子。どことなくディストピアな雰囲気はあるものの、2人を取り巻く味のあるキャラクターや鮮やかな色合いで描かれる美しい景色が、物語に優しい光を与えている。
くるりの3人もゲストで登場、デフォルメされつつもかなり特徴を捉えていて結構似ている。ラストシーン、空からゆっくりと落ちていく岸田繁の満足げな顔が可愛い。
THE BREAKAWAYS『GIRL ELECTRIC』
彗星のごとく現れ、彗星のごとく消えてしまった謎のロックバンド、THE BREAKAWAYSのMV。田舎町を飛び出した悪ガキ3人組が、夢と欲望が渦巻く巨大都市を舞台に躍動する。
衝動の赴くままにさまざまな経験を重ね、都会の光と影に飲み込まれる少年たち。しかし最後までロックンロールへの憧れを捨て去ることはなく、がむしゃらに走り続けるその姿は、スタイリッシュな絵柄も合わさって最高にクールだ。
ラストは満員の観客を前にした実写のライブシーンで締められる。覆面バンドということもありバンドの顔は隠されているが、それによって現実と虚構の境界が曖昧になり、観てるこちらも彼らと同じ世界に引っ張られるような気分になる。彼らは今もどこかの街で暴れ回っているのだろうか、想像が膨らむ。
bloodthirsty butchers『JACK NICOLSON』
伝説のオルタナパンクバンド、bloodthirsty buthersの代表曲。うだつの上がらない中年サラリーマンが、思いがけず拳銃を手に入れたことから始まるひと騒動を描く。4分半の中に男のロマンがこれでもかと詰め込まれた超名作だ。
銀行強盗にたてついたり、ブッチャーズのライブに乱入したり…拳銃を手に入れたことで生まれた虚勢に身を委ね、日々の鬱憤を晴らすかのように暴れ回る主人公。ライブステージをジャックし、報われない人生を思い返しながら熱唱する姿は、痛快である一方強烈な悲哀が漂う。
熱と哀愁とカタルシスが束になって襲ってくるラストは一度観たら忘れられないはず。歳を取り、作ってきたものが新鮮みを失ったとしても走り続けたい…そんな曲に込められた決意を体現するかのような傑作。
電気グルーヴ『Cafe de 鬼(顔と科学)』
一言で表すと「これはひどい」。監督は「バカドリル」の作者であり、電気グルーヴと親交の深い天久聖一。
現実世界でも無茶苦茶やってる人達がアニメの世界に入ったもんだから、もはや収集のつかないことになっている。冒頭で死刑判決を下される電気グルーヴの2人、次々と現れる奇人変人怪人、名作アニメの雑なパロディと、とち狂ったシーンが延々と垂れ流される。ちなみに一応歌詞はちゃんとなぞっている(つまり曲自体がヤバイ)。
上記の通りイカれた作風である一方、軽快な曲調も相まってやたらテンポが良く定期的に見返してしまう中毒性があるのも事実。なおこの曲にはバージョン違いがいくつもありMVも複数ある。アニメ作品となっているのは今作だけだが他のバージョンも結構酷い面白いのでオススメ。
今回はここまで。他にも紹介したい作品がたくさんあるので、またいずれ書ければなと思います。読んでいる方もオススメの作品があったら是非コメントかなんかで教えてくださいませ!それでは!