昨年再結成を発表したかと思えば、怒涛の勢いで新作をリリースし、ブランクを感じさせない活躍を魅せている東京事変。彼らが実に10年ぶりのフルアルバムを発表した。タイトルはズバリ『音楽』。サウンドをとっても歌詞をとっても「2021年の東京事変」を感じられる会心の出来になっている。
全体的を包み込むのは、ファンクやジャズなどを取り込んだグルーヴに重きを置いたサウンド。解散前と比べるとロックバンドとしての爆発力や、The Cardigans直系のスウェディッシュなポップセンスはやや鳴りを潜めている。
その分強く印象に残るのは、複雑化していく社会を象徴するようなプログレッシブな空気だ。『赤の同盟』の間奏のようにガラッと曲風を変えてくるのはもちろん、同じメロディーの中でもコーラスの有無や譜割り、各楽器のバランスを変えることで、展開を錯覚させる『紫電』『獣の理』など、バンドのテクニックを活かした「奇襲」を仕掛けてくる曲が目立つ。
そんなプログレ特有の複雑さ、自由さを維持しつつも、本作は聴く側を置きざりにはしない絶妙なバランスで成り立っている。一通り聴き終わった後には軽く運動したような少しの疲労と大きな充実感を残してくれる。
歌詞に目を向ければ、現代社会の歪みに深く切り込んだフレーズが印象的。その中でも『闇なる白』は一歩間違えればどっかのお偉いさんから冷めた目を向けられそうな痛烈なフレーズが並ぶ。椎名林檎自身が、オリンピックの演出プランナーという形で明確に「国」と関わっていたからこそ、その言葉には重みと説得力がある。
それでも彼らは今の時代を悲観することはない。リードトラックになっている『緑酒』は、椎名自身が「現役世代の肩に伸し掛かる重みを分かち合いたい、とにかくそれだけです」と語ったように、不自由な時代の中で真の自由を求める意味を説いた名曲。今を生きることに精一杯な人が溢れかえるこの世界で、東京事変はすでに「先の時代」を見据えている…なんとなくそう感じた。
どの視点から見ても、10年ぶりに再結成したバンドとは思えないほど時代に適応した作品。解散中もメンバー全員が音楽シーンの第一線で時代の空気に触れていたからこそできる芸当だと思う。
一方でひとたび聴けば「東京事変の新作!」とわかるような、彼らのアイデンティティーが強く残っているのも事実。それは音楽性云々というよりも、5人が集まることで生まれる「凄み」のようなものなんじゃないかと思う。時代や人が移り変わっても、彼らにしか鳴らせない音がきっとあるんだろう、そんなことを感じずにいられなかった。アルバム名通り「音」を全力で「楽」しんでいる作品だ。