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5年ぶりの後編です。色々言い訳したいところですが、面倒なのでのっけから本題に入ります。
※ここから先はあくまで個人の意見です。そこまで素っ頓狂なことは書いてないつもりですが、くれぐれも真に受けすぎないでね。
1stシングル『アポロ』はその斬新さによって大ヒットを飛ばすも、曲が先行した人気はポルノグラフィティが「一発屋」になる危険性もまたはらんでいた。
事実1stアルバム『ロマンチスト・エゴイスト』はヒットこそするものの、『アポロ』の売上には惜しくも届かなかった(『アポロ』はおよそ41万枚、『ロマンチスト...』はおよそ40万枚)。このことからも「ポルノグラフィティ=アポロ」のイメージはかなり強かったことがわかる。
その状況を打破し、ポルノグラフィティを名実ともに日本を代表するアーティストに押し上げた曲として、後編では3rdシングル『ミュージック・アワー』に注目したい。
一聴すると夏にふさわしい陽気なナンバーであり、誰もが知るヒット曲。しかしその背後には自らの名前を音楽シーンに刻むための「仕掛け」がいくつも散りばめられており、実はものすごく周到な計算のもとに作られた曲なのでは?と考えることができるのだ。
「仕掛け」は大きく分けると3つある
1.テーマ
本曲はポカリスエットのCMソングとなることが決まっており、制作段階で「テレビ」で流れることが想定されていた(厳密には候補にあった『サウダージ』がイメージに合わなかったため急遽作らされた)。しかし彼らはあえて「架空のラジオ番組」を曲の舞台に据え、そこで繰り広げられるリスナーとのやりとりを歌詞に乗せている。
「ラジオあるある」をこれでもかと詰め込んだこの1曲は、冒頭のジングルをラジオ局(番組)に応じて変更したバージョンが作られるなどラジオとの関係を深めていく。CMタイアップとしてテレビから流れ、「ラジオをテーマにした曲」の代表としてラジオでも流れる。これによってYouTubeもサブスクもない時代に、彼らはたった1曲でテレビとラジオという当時の主要なふたつの音楽メディアを掌握したのだ。
2.名前の刷り込み
架空のラジオ局を舞台にするにあたって、本曲ではイントロ前にジングルが流れる。ここで注目したいのが、《This is Porno Graffitti!》という一節。
大型タイアップがついたことで、多くの人の耳に届くことは約束されている。彼らはその機会を逃さず、あえて曲中に自らの名前と曲名をさりげなく入れ込むことで、一発屋にありがちな「曲の存在感にアーティストの名前が埋もれる」ことを回避しようとしたのではないだろうか。
この手法は曲の一部しか流れないテレビで行うことは難しい。そこで前述の「ラジオを味方につける」ことが重要になってくる。少なくとも1番サビまでは流れるラジオを通すことで、より広い範囲への「刷り込み」を可能にしたのだ。
3.良い曲にする
身もふたもないことだが、これが最大にして最強の仕掛けだと思う。ミレニアムイヤーのお祭り騒ぎを反映したようなキャッチーではじけた雰囲気は、これまでのデジロック路線をキープしつつ新境地を見せている。
また『アポロ』同様、曲のテーマの見出し方は今から見ても新鮮。日本で誰も歌にしていないことを歌にする、これを何度もやってのけてしまう彼らの観察眼の鋭さは相当なものだ。時代の変化を冷静に見つめるまなざしと、それを表現しうるだけの確かな音楽センスがあったことは間違いない。
2000年7月に発売された本曲はオリコン初登場5位に食い込み、圧倒的な存在感を放っていた1stシングル『アポロ』を凌ぐ売上を記録。本人も「この曲でポルノグラフィティ=アポロというイメージを払拭できた」と語る重要な曲となった。
この結果を導き出したのが、前述の「仕掛け」だとここでは考えたい。3つの仕掛けが互いに機能しあうことで、本曲はただヒットしただけでなく、音楽シーンにポルノグラフィティの名前を克明に刻みつけさせたのだ。
さらに彼らは次作『サウダージ』で何度目かの新しい扉を開く。これまでとひと味違う大人なラブソングは、前作超えのヒットを記録。その象徴的な「ラテン」のリズムは彼らの十八番となり、『アゲハ蝶』や『ジョバイロ』『オー・リバル!』など、数々の名曲を生み出していくこととなる。
そこから先は知っての通り。メンバー脱退という苦難こそあれど、デビューから20年を超える今に至るまで、安定した支持を受け続けている。
ポルノグラフィティが一発屋にならなかったのは、前述の『ミュージック・アワー』の仕掛けからわかるように、自分たちの状況を俯瞰的に見つつ「今何を作るべきか」を把握するセンスがずば抜けていたから…と結論づけたい。
それが意図的にせよ無意識的なものにせよ変わっていないことは、彼らがまだJ-POPの第一線を走り続けていることからもわかる。彼らの曲は世代を超え、今なお多くの人の心を掴んでいるのだ。