Drop‘sが活動休止の発表をした瞬間は、少し驚きつつも全く予想をしていないわけではなかった。コロナ禍に入って以降バンドとしての活動は止まっていたし、メンバーそれぞれの活動を見ても「Drop's」であることに必要性を感じていないように見えたからだ。
だからこそ少し不安があった。好きなバンドの活動休止を目の当たりにする自分を含めたファンの熱量と、今の彼女たちが「Drop‘s」に向ける熱量は共存することができるのだろうかと。
もちろんライブは楽しみだったが、ラストツアーの初回公演であるにもかかわらず妙にゆるい彼女たちのツイートにどこか緊張感のなさを感じて、小さな不安が心の片隅で渦巻いていたのも正直なところだ。
しかしいざライブが始まってみると、その心配は杞憂だったことがわかる。『太陽』『かもめのBaby』と躊躇いなく代表曲を繰り出す姿は、「緊張感がない」のではなく「吹っ切れている」ように映ったのだ。「活動休止」という選択をしたことでようやくDrop'sは迷いの時期を抜け、自由さを取り戻せたのかなと感じた。
人気曲でありながら長らく演奏されていなかった『アイスクリームシアター』が披露されたのは、まさにその「吹っ切れ」の象徴だったように思う。やや緊張気味だったフロアもこの辺りから少しずつ盛り上がりを取り戻していく(一緒に叫べなかったのが残念!)。
Drop'sのブルース魂に存分に浸れる名バラード『SWEET JOURNY BLUES』からは、最新の曲も混ざり曲調がいっそうバラエティ豊かになっていく。
しかし根底にあるのはあくまで「ブルース」と「ロックンロール」。音源では小綺麗にまとまりすぎていて物足りなさを感じていた最近アルバム『Tiny ground』の曲も、ライブだとGt.荒谷の「泣きのレスポール」がグッと映えていた。
一方で自分がDrop'sにのめり込むきっかけとなった『ハイウェイクラブ』の不穏なイントロが流れた瞬間は、他の曲とは比べものにならないくらいの衝撃を感じた。やはり僕の好きなDrop'sはこの頃なんだろうと、改めて思う。
『マイハート』を力強く演奏したのち、MCでこの度の活動休止に触れる。「また戻ってくる」という何度も繰り返される言葉は、おそらく集まったファンを安心させたい気持ちもあっただろう。
だがその後に『さらば青春』を歌われて何も思わない人はいないのだ。学生時代から続けてきたバンドを一度終わらせることは、文字通り「さらば青春」。このライブでひとつの別れが生まれることを誰もが強く実感したワンシーンだったと思う。
それでもただ感傷に浸らせて終わりではないのが今のDrop'sの強みだ。ライブ後半で演奏された『Tシャツと涙』『毎日がラブソング』『新しい季節』などの比較的新しい曲たちは、どれも前向きでストレートなメッセージに溢れており、「別れを悲しむライブにはしたくない」という彼女たちの思いをしっかりと汲みとっていた。その甲斐あって湿っぽい空気になることはなく、終始明るい空気を保ったままライブは進んでいく。
本編ラストは『未来』。何度もライブのラストを飾ってきた曲だが、この状況下で聴くとまた違った深みがあった。《ねえ 少しだけ未来思うよ》彼女たちの新しい門出を優しく祝うような1曲で本編はバシッと締められる。
観客の拍手は鳴り止むことなく、自然とアンコールへ。1曲目は『どこかへ』、弾き語りによる前半からバンドサウンドが押し寄せてくる後半、そしてVo.中野ミホの《抱きしめて》と高らかに歌い上げる姿が問答無用に胸を締め付けてくる。
少しのMCを挟んで『コール・ミー』でラスト…と思いきや演奏されたのは『天使の雲』!疾走感の中に少しのセンチメンタルを引き連れた名曲…少し意外な選曲に驚きつつも、終わりが近づき寂しさが顔を覗かせる心に、再び火がつくのを感じた。
そしてダブルアンコール。まだ緊急事態宣言が出ているにもかかわらず、ギリギリまでライブをやってくれることに、ライブハウスのDrop'sへの愛、そしてDrop'sの観客への愛をひしひしと感じる。
もちろん最後は『コール・ミー』!彼女たちの名前を叫びたい気持ちを必死で抑えたのは自分だけじゃないはず。最後まで笑顔を絶やさないまま、ライブは華々しく幕を下ろした。
正直、ラストツアーらしいライブだったかといえばそんなことはない。「初めましてDrop'sです」というお決まりの挨拶から始まり、自粛期間中の各々の生活を話す和やかなMCを挟み、アンコールでは物販の販促までしていた。10年以上やってきたバンドとは思えないゆるさである。
しかし最後のツアーであってもいつものスタイルを崩さないその姿にはむしろたくましさを感じたし、普段であれば絶対に信じない「絶対に戻ってきます」という言葉も、不思議と信じられるような気持ちがした。決して器用ではないが、ひたむきにバンドをやっている…音楽性が変わっても彼女たちのことをなんだかんだで応援できたのは、その姿勢を貫いていたからなんだろう、きっと。
『マイハート』では《大人になれない》なんて歌っていたが、いつか少しだけ大人になった彼女たちが戻ってくる日を、今は楽しみに待ちたい。
夜が明けても降り続ける雨が
行けよ と静かに言うのさ
この心も この体も
どこかへつながっている
未来とよばれる どこかへ
(太陽)
ありがとう、Drop'sは俺の青春です。
当日のセットリストです
昔書いたライブレポ、懐かし〜!