今年結成10周年を迎え、そのエバーグリーンなオルタナっぷりにさらに磨きがかかるArt Theater Guild。彼らにとって初となる東名阪ツアーが我が地元名古屋からスタートした。
対バン相手はジャパニーズオルタナの大先輩シュリスペイロフ。少し歪でとびきりアツい夜になった本公演の模様をレポートする。
ーーー以下ネタバレありーーー
トップバッターは。名古屋でのライブは超久々のシュリスペイロフ。しばらく見ないうちにVo.Gt.宮本英一の見た目がとんでもないこと(末期ビートルズのジョンレノンと坂本慎太郎を足して2で割ったような姿)になっていて衝撃を受けたが、始まってみればいつも通りでひと安心。
セトリは現時点での最新作『遊園地は遠い』の収録曲がメイン。元々のリリースツアーはコロナで中止になってしまったため、『孤立した街』『あそぼ』など名古屋では初披露となる曲が多かったのが嬉しい。一方で『朝ごはん』や『檸檬』など過去の曲についても、絶妙にツボを抑えた素晴らしいチョイスだった。
シュリスペイロフをライブで聴くと、ツインギターの絡みの「歪さ」が音源以上に浮き彫りになる。丁寧にボタンを掛けているように見えて、よく見ると全て1個ずつずれているような噛み合わなさ。
意図的に作られたその「ズレ」によって会場は少しずつ彼らの空気に支配され、『檸檬』の破滅的にも聴こえるギターソロの応酬でいよいよ誰にも真似できない境地に僕らを連れていく。
そしてこの日に関して言えば、宮本の浮世離れした雰囲気や言葉がバンドのアングラ感にさらに拍車をかけていた。
前述の見た目はもちろん、『朝ごはん』を演奏する前につぶやいた「ここ最近はいつも15時くらいに起きてる」という衝撃の告白を聞いた時は正直やや心配になったが、世間や社会を意にも介さないその姿はある意味「真のオルタナミュージシャン」なのかも。でもお願いだから長生きしてね。
ラストに演奏されたのは『カノン』。シュリスペイロフの中でもとりわけストレートなバラードは、これまであえて「ズレ」を重ね、その違和感を武器にしてきた4人の足並みが、1周して同じ場所に着地したような美しさがあり、ライブ全体がひとつの物語性を帯びていくのを感じた。
相変わらずのマイペースさだが、音楽に向き合う姿勢は間違いなく本物、積み重ねたキャリアに裏打ちされた圧巻のライブだった。
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本日の主役Art Theater Guildは、『Headlong』で軽やかにスタート。ツアー初日だが気負った様子はなく、驚くほどリラックスしたムードに会場が包まれていく。
彼らを見るのは年末の下北沢に次いで2度目だが、その時はやらなかった『BUTTERCUP』が聴けた時点で個人的には大満足。自然と体が動くギターリフが次々と飛び出してくるところが彼らの魅力のひとつ。
メロウなサビのスキャットと渾身のギターソロのギャップが狂おしい『Blue foggy weekend』を終え、昨年末にリリースされた最新曲『picnic』制作の背景に触れる。
そこで語られたのは彼らの覚悟だった。前作『NO MARBLE』やワンマンライブを通し、これまで以上の手応えを感じられたこと。そしてコロナで思うように所属レーベルが動けない中、CD作成からツアーの段取り、グッズ制作に至るまで全て自分たちで行うという決断をしたこと。
経済的にも精神的にも余裕があるとは言い難いインディーズバンドにとって、この決断が決して平坦な道のりでないことは容易に想像がつく。
しかしこの一連の「苦難の旅」を象徴する曲に彼らは『picnic』と名付けた。側から見ればイバラ道でも、今の俺たちにとっては「ピクニック」なんだぜ…そんなメッセージを感じ、改めて4人の「意志の強さ」に鳥肌が立った。
その後演奏された『picnic』。《帰り道を忘れても 行くあてを僕らは知ってる》というフレーズが音源以上の力強さで響く。そこにいたのは彼らが慕うthe pillowsにも通じる、時代が変わろうとも揺るがない信念を持ったロックンロールバンドの姿だ。
本編ラストの『鉄紺と黄緑』、そしてアンコール『MADDERGOLD』を音源以上の情念で叩きつけ、これからの彼らの旅路を祝うような温かな拍手でライブは終了。いい映画を見終わった後のような「無敵感」に包まれ、まさしく《今日の事をくり抜いて浮かべたら綺麗だろうな》と感じられる夜だった。
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相変わらずバンドシーンに厳しい向かい風が吹きまくっているが、彼らのような強い意志を持っているバンドがある限り大丈夫だろうと思う。まだまだ応援し続ける所存です。