ロックンロール戦線異常あり

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ディスクレビュー:スピッツ『見っけ』前編

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3年という期間は、ちょうど周りの環境が変わるサイクルなのかもしれない。『小さな生き物』をわくわくしながら買いに走った高校生は、3年後『醒めない』でその変らないロック魂に心打たれる大学生になった。そしてさらに3年が経ち、社会人になった僕は懐かしくも新しいスピッツの姿を、待望の新作『見っけ』の中に見っけたのである。

前作『醒めない』でも拙いながらレビューを書いたが、3年経ちまだこのブログが超絶マイペースながら続いていることに驚く。過ぎ去りし3年の月日に思いをはせつつ、全曲レビューやります。

 

1.見っけ

テンションの高いシンセサイザーの音に、スピッツの新機軸を感じる1曲目。曲中で何度も繰り返される《再会へ!》というフレーズに「3年間お待たせしました!」という気持ちが表れているようで勝手に胸が熱くなる。爽やかな曲だが《生ぬるい運命を 破りたい》と力強い言葉も飛び出して、時は経てど軸は何も変わっていないことを改めて思い知らされる。

 

2.優しいあの子


スピッツ / 優しいあの子

遂にスピッツが朝ドラ主題歌を…!と歓喜していたのも早半年前。結局ドラマ自体はろくに見ることもないまま終了。ただ以前スピッツファンではない知り合いがこの曲を口ずさんでいるのを聞いて、ちゃんとこの曲が多くの人に広がっていることを実感した。朝のひと時にそっと寄り添うような優しい歌だが、ただ優しいだけでなく「痛み」や「悲しみ」の存在も無視せず受け容れているのがスピッツらしい。《寂しい夜温める 古い許しの歌を 優しいあの子にも聴かせたい》という一節はまさにそんな懐の深さが表れていて、聴くたびにハッとしてしまう。シンプルながらスピッツの凄さに改めて気づかせてくれる名曲。

 

3.ありがとさん


スピッツ / ありがとさん

最初聴いた時はなんとなく恋人との別れを描いているのかな~くらいに感じていたが、インタビューで草野マサムネさんが「死者目線のつもりで書いてる」なんてことをサラッと言っていて衝撃を受けた。確かに《いつか常識的な形を失ったら そん時は化けてでも届けよう ありがとさん》という歌詞からは明らかに「死」を連想できる。でもそんな重いテーマを匂わせながら、「ありがとさん」なんてさっぱりした一言でこの曲を「優しい別れの歌」として成立させていることに、なんというかスピッツの恐ろしさを感じてしまった。もっと言えばこの曲は、自分が何となく「恋人との別れ」を連想したように、聴いた人によってその人が思う「別れ」のイメージが浮かんでくる曲なんじゃないかと感じている。結構シンプルな歌詞ではあるんだけど、だからこそ聴く人がそれぞれの解釈で共感できる、深い曲。

 

4.ラジオデイズ

「ラジオ賛歌」を作るバンドは結構いるので、「遂にスピッツも出してきたな…!」という印象。Aメロの耳に残る韻の踏み方だったり、間奏のチューニングを合わせるような(最近はそんなことしないけど)ノイズの音であったり、聴きどころが多い。特に2番のAメロの歌詞は、改めて読むとひねくれ者の気持ちを見事に表現していてグッとくる。《ノイズをかき分けて 鼓膜に届かせて 同じこと思ってる 仲間を見つけたんだ》と歌っているように、ラジオって一人で聴くことが多いけど、いろんな人のリアルタイムなメッセージが聞けて「孤独」じゃなくさせてくれる存在だったなと思う。「School of Lock!」をよく聞いてた高校時代を思い出した。「有吉弘行のサンデーナイトドリーマー」もよく聞いてたっけ…

 

続きは次回!