スピッツ - アルバム『見っけ』SPOT「音尾琢真×スピッツ4兄妹篇
9.はぐれ狼
スピッツのアグレッシブな側面が窺えるロックンロールナンバー。はぐれ狼と聞くとなんだかカッコいいイメージがあるが、この曲に登場するのは《誰よりも弱く生まれて 残り物で時をつなげた》負け犬の狼の姿。自らの弱さを自覚しつつも懸命に生きようとするその姿は孤独である一方、孤高とも呼べる。《勝算は薄いけど 君を信じたい》というフレーズがあまりにも切実だが、この狼が迎える結末は果たしてハッピーエンドかそれとも…?
10.まがった僕のしっぽ
牧歌的なフルートが鳴り響く、おだやかな雰囲気漂う3拍子の曲…かと思いきや突如2ビートのパンクに変わり、そしてまた3拍子に戻るというなんともプログレッシブな曲。その不思議な構成から、アルバム発売前の雑誌のレビューではこの曲がよく取り上げられていたのが印象に残っている。ただ草野マサムネが歌うとどんなリズムでももれなくスピッツの曲になるからか、曲としては結構きれいにまとまっているように感じた。
そしてやはり歌詞は気になるところ。「まがった僕のしっぽ」が何を指すのかは色々と説があるようだが、個人的には「捻くれた感性」の象徴みたいなもんかなと勝手に解釈している。《優秀で清潔な地図に 禁じ手の絵を描ききって 楽しげに果てたい》というフレーズに、マジョリティーには飲まれず己の道を突き進もうとするスピッツなりの決意を見た。
11.初夏の日
穏やかなアコースティックナンバー。前後が結構存在感のある曲ということもあり、決して目立っているわけではないが、尖った曲が続いた後にそっと置かれたこの曲がアルバム全体に深い奥行きを与えていると思う。初夏の爽やかさというよりは、初夏の思い出に浸るゆったりとした時間を描く暖かい曲だ。《君と二人京都へ》と歌っているが、京都って個人的に秋のイメージがあるから、初夏をイメージした曲に京都が出て来たのは少し意外だった。
12.ヤマブキ
アルバムのラストを飾る、とんでもなく風通しの良いロックナンバー。爽やかでキャッチ―な曲でありながら、その上に《邪悪とみなされても 突き破っていけ》とハングリー精神剥き出しの歌詞を乗せるところに強烈な「スピッツらしさ」を感じて、もれなくアルバム内で一番好きな曲になった。30周年を超えても一切衰えないバンドの力強さと軽やかさを感じられる名曲。
朝ドラの主題歌を任され、いよいよもって「国民的バンド」らしくなってきたな…と感じることもあった。しかしアルバムにはそんなレッテルなど関係ないとばかりに、「マジョリティーからの離脱」を歌った曲が並んでいる。一方でただ衝動的・感情的になるだけではなく、そこに優しく寄り添う温かさもまた全体に満ちており、「尖っていて丸い」スピッツの真髄が結成30年を超えてもなお成長し続けていることを、聴けば聴くほどに実感できる作品だと思う。
まだ見ぬ素晴らしい何かを見っけようと進み続ける、スピッツの旅はまだまだ続いているのだ。