yonigeが変わった、もうめちゃくちゃ変わった。
およそ1年3ヶ月ぶりとなった新作『三千世界』は、スリーピースのシンプルなロックバンド…という肩書きはもう不要と言わんばかりのオルタナティブなアルバムとなった。サイケやジャーゲイザー、民族音楽などを取り込み、日常と精神世界を往来するようなトリップ感あふれるサウンドになっている。
アジカンのゴッチやチャットモンチーの福岡晃子をプロデューサーに招いたり、4人編成で活動したり…ここ数年で蒔いてきた経験の種がついに花ひらいた印象を受ける本作。
間違いなく「振り切った」作品だが、決してメジャーシーンからドロップアウトしたわけではない。結果として彼女たちのサウンドは羊文学やリーガルリリーなど、今勢いを伸ばしている日本のインディーロックシーンにしっかり食い込んでいるのだ。バンドの変化が、日本のバンドシーンの変化と図らずも連動しているというのはなんだか面白い。
そして新たに飛び込んだシーンの中でも決して埋もれない個性をyonigeは持っている。そのひとつがGt.Vo.牛丸が最近凝っているというヨガ、ヒプノセラピーの影響。それが顕著に表れた『催眠療法』は、民族音楽を大胆に取り入れたyonigeの新機軸といっても良い。サイケデリックなリフや打楽器の響きはどこか宗教的な神秘性を帯び、彼女たちの新たな一面に驚かされる。
また歌詞も確実に変化した。生活の中の「リアルな私」が中心だった『アボガド』を筆頭とする初期の曲に比べると、本作では切り取った日常風景を元に、その裏側や自らの内面など目に見えない部分に切り込んだ描写が多く間違いなくタッチが異なる。
燃えるゴミだけが溜まってくる日常
ここにあるだけの命じゃ足りない
未来の顔も知らない誰かさんに
わたしの骨を
見つけてもらえますように
(わたしを見つけて)
普通車じゃ細い道路を無理矢理に左折する
見覚えない町をなぜだか懐かしく思うのは
夕焼けの反射光 風が運ぶ夜のにおい
エアコンの壊れた音が歌うから
(27歳)
ヨガを続けていると、精神集中の繰り返しにより自分の身体の一部が自然に溶け込み第6感が冴える…という話を聞いたことがあるが、これまで以上に鋭敏な感性で描かれた本作の歌詞を見ると、あながちおかしな話でもないのかもしれない。「自分と世界の境界」についての認識の変化が、彼女たちの表現に奥行きと繊細さを与えている。
おそらく長い間彼女たちの中で生まれていたであろう「変化への欲求」を音楽内外の影響や経験によって完全にコントロールした本作。牛丸はインタビューにて「これまでの自分たちに期待している人たちを裏切りたい」と大胆にも話していたが、新しく飛び込んだシーンの中で彼女たちがどんな「裏切り」を見せてくれるのか楽しみで仕方がない。