ロックンロール戦線異常あり

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ライブレポート:The Birthday 「GLITTER SMOKING FLOWERS TOUR 2020」 名古屋公演

※ネタバレあります

 

今年も見られて良かった。

 

正直今年はもう諦めている節があった。これまでのThe Birthdayのライブを知っている身からすれば、毎度毎度「3密ここに極まれり」な状態になる彼らのライブを見ることは難しいと思っていた。

それでも彼らはライブをすることを決めた。いろんな制限の中での開催とはいえ、決して小さくないリスクを背負うこの行動が、正しい選択なのかどうかはわからない。だが自分はそこに、年間100本近いライブをこなしてきたライブバンドとしての「正しい姿」を見た。そしてなんとしてもその姿を目に焼き付けたいと思った。「チケットをご用意できました」という文面があれだけ輝いて見えたのは、かなり久しぶりだったように思う。

 

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今回の舞台は名古屋市公会堂。かつて母親はここでスライダースを見たらしい。長い歴史に裏打ちされた大人な雰囲気が、The Birthdayと良くあっている。ゆっくりと色が変化するライトアップも素敵だ。ちょっとラブホみたいと思ったのは内緒だ。

 

The Birthdayのライブが始まる前は、毎回妙な緊張を感じる。このバンドを通じて生まれた思い出の数々がどしっと胸にのしかかるような、苦しいけど幸福な感覚。例えいつもと少し違う雰囲気の中であっても、彼らのライブを今年も見られるという事実だけで自分の中のスイッチが入ったのが分かった。

 

ヒマワリがさぁ 折れちゃってさぁ

夏が終わるって言ってたのかな

 


The Birthday 「ヒマワリ」MUSIC VIDEO (FULL ver.)

 

1曲目に演奏されたのは「ヒマワリ」。「バンドとして、『今』本当に歌いたいこと」という触れ込みでリリースされた最新曲。寂寥感のある冒頭のフレーズから、《世界を知りたくて 未来を見たくて》もう一度咲こうとするヒマワリの姿が力強く歌われる。そこから立て続けに演奏された「青空」でもう胸がいっぱいになった。《おまえの未来はきっと青空だって言ってやるよ》と言ってのけるチバの言葉には、圧倒的な強さと優しさがある。未来への確かな希望を歌ったこの2曲は、間違いなくこの時会場にいた観客全員が必要としていた言葉だったと思う。

 

間隔を空けた指定席、歓声も叫びも聞こえない、The Birthdayのライブとしては異質な空間。だがそんな中でも4人は少しも気にする素振りはない。拍手に対して「なんかいいね…」と呟き、「普段拍手なんてされたことない(そんなわけあるかい)」とこれでもかと客に拍手を促すチバユウスケは、いつもと違う雰囲気を存分に楽しんでいるようで、見ていて気持ちが良かった。

時にクールに、時に激しく脈打つ演奏もいつもと何も変わらない。このご時世だから…と変に萎縮することなく、本来であれば客が合いの手を打つ「ROCK YOUR ANIMAL」や「DOOR」も余裕で披露。ただ恒例とはいえ「くそったれの世界」の冒頭をいつものように観客に歌わせにきたのは驚き。一瞬の戸惑いの後小さい声で歌い出す観客、今までとは違う合唱コンクールのような優しい歌声が会場に響いていた。

 

だがそれでいいのだと、アンコールで演奏された「声」を聴いて思う。《声 聞こえるか》《声 届け》と何度も叫ぶ4人の姿には、どんな状況であってもバンドを続けようという確固たる意志、生き様があった。そして《小さくたって聞こえるさ 声》というラストのフレーズで、僕らは間違いなく救われた。たとえ歌えなくても僕らの声は、「想い」として彼らにちゃんと届いているのだと。4人はこの曲に、「今『バンド』として何をするべきか」という問いに対する答えを込めたんじゃないかと思う。

 

指定席でも、声が出せなくても、普段のライブに引けを取らない満足度だった。きっと彼らがバンドとして伝えたいことは時代がどう変わっても揺るがない不変のものなのだ。だからこそ「いつも通りのライブ」ができたのだと思う。

それでもやっぱり次はライブハウスで全力で「くそったれの世界」の冒頭を歌いたい。一刻も早いコロナの収束を、今は願うばかりだ。

 

とんでもない歌が 鳴り響く予感がする

そんな朝が来て 俺 

  

くそったれの世界

くそったれの世界

  • The Birthday
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes