正直、今年一番度肝を抜かれたアルバムだった。1年後どころか、1週間先がどうなってるかもわからない不安に満ちたこの時代に、ここまでまっすぐ未来への希望を歌った作品が現れるとは。
前作『liquid rainbow』から3年ぶりにリリースされたSuiseiNoboAzの新作。オーバーチュアの『千年後』を経て、タイトルチューンである『3020』が流れた瞬間、言葉と音の波に心が一気に洗われるような気がした。自らが生み出す音楽への愛を、「3020年」という誰の想像も及ばない未来に託した名曲だ。
千年前に作られた歌が
今じゃもうとうに古典であるように
千年後これを聴く人間にとっては
この曲はもうクラシックなんだろうな
だけど俺は遠い遠い大昔の歌に
心が動くことだってあるから
遥か未来これを聴くやつらにとっても
そうであることを願っている
(3020)
正直ここに歌詞全文を引用したいくらいだが、とんでもない文字数になるのでやめておく。だがそう思うくらい、この曲の歌詞は衝撃的だった。
1000年後も自らの音楽はきっと誰かに届くと確信している彼らの言葉は、不思議と大袈裟には聞こえない。流行り廃りのサイクルからは外れた彼らのサウンドは、進み続ける時代の空気に混ざりながら普遍的に存在し続ける…そう思わせてくれる説得力を生み出している。
「月の主」を追い求める幻想譚『月面源流釣行記』。メロウなサウンドとどこかノスタルジーを感じさせる言葉が心地よい『YOU ARE MY RAINBOW』。「誰もがいつか死ぬ」という強烈なメッセージを轟音と共に響かせる『SUPER BLOOM』。遠い未来から始まった物語は、時代や次元の壁を超越し、さまざまな映像を脳内にフラッシュバックさせながら進んでいく。
俺たちは必ず また巡り会う
あの時のドブ川が未来都市を映し
再会 肩を叩き合い 笑い合う
(それから)
長い旅路の果てに、再び現代から遠い未来を想う『それから』でこのアルバムは締め括られる。やがて訪れる「死」という現実を受け入れつつもさらにその先に想いを巡らし、遠い未来での再会を願う言葉が、静かに心に染み込んでくる。最初にこの曲を聴いた時、不覚にも少し泣きそうになった。そして今この時代に未来への希望を歌ってくれるバンドがいるという事実を改めて噛み締めたのだった。
このアルバムを聴いて思い出した本がある。夏目漱石の「夢十夜」。夢の世界を描写した全10話の短編集だ。第1話で「時を越えた再会」を描き、そこからさまざまな「夢の世界」を見せてくれるこの物語は、「魂」「輪廻転生」など、本作のテーマと通じる部分が散見される。インスパイアを受けたのかどうかは本人のみぞ知るだが、文学から音楽に形を変え現代に蘇った「夢十夜」、そんな側面も今作は持っているように感じた。
1000年後、誰かがこのアルバムを聴いて心動かされる時がくるかもしれない。もちろんただの妄想だが、誰も想像できないからこそ僕らは未来を自由に描くことができる。そんなことを教えてくれるアルバムだ。