ロックンロール戦線異常あり

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ディスクレビュー:銀杏BOYZ『ねえみんな大好きだよ』前編

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遂にきた!

 

前作『光の中に立っていてね』から6年、遂に発売された銀杏BOYZの新作。Vo.峯田和伸のソロプロジェクトとなって初めてのアルバムとなる。前作の時点の銀杏BOYZはかなり不安定だったというか、バンドがどうなっていくかファンもメンバーもよくわかっておらず、そうした迷いがアルバムのサウンドや「東京終曲」のMVといった形で露骨に現れ、挙げ句の果てにメンバー脱退という、名実ともにめちゃくちゃな状態だった。(それはそれでバンドのストーリーとしては魅力的なのだが)

だがそこから峯田は立ち直った…いや「吹っ切れた」というべきか。ともかく今作には迷いの果てにたどり着いたひとつの境地があるように思う。少なくとも僕は今作を聴いて、正直「作品を通して一貫性」があるという点では最高傑作なんじゃないかと感じたし、「銀杏まだいけるやん!」という確かな安心感を覚えた。前作からの6年間、そこで生まれた数々のストーリーが詰め込まれた珠玉の11曲を、全曲レビューという形で見ていきます。

 

1.DO YOU LIKE ME

爆音ノイズに埋め尽くされたハードコアナンバーでこのアルバムは幕を開ける。

「激しさ」という側面だけ見ればかつての銀杏BOYZに通じるものがあるが、サウンドや歌詞、歌い方はやはり違うなと思う。誰もが心の中に持っている汚い部分を直接的な言葉でさらけ出していた1stの頃と比べると、今の銀杏BOYZはそうした欲求や愛情をもっと根源的なところからすくい上げて歌っているように思う。衝動だけで歌っているわけではなさそうなんだよな、今の峯田和伸という男は。昔もそういうところがなかったわけではないけど、今の方がその傾向を強く感じる。

男女がアクリル板越しにディープキスをするMVはインパクト大。だがそこにも「ヤりて〜」みたいな薄い欲求じゃなくて、その奥にあるもっと本能的な人間性が表現されているように感じた。

 


銀杏BOYZ - DO YOU LIKE ME

 

2.SKOOL PILL

前曲と同じくハードコアナンバー

ノイズにまみれた2ビートパンクだが、歌詞を見ると高校生の微笑ましい日常がテーマという妙なギャップが面白い。この歌詞には峯田自身の高校生時代が色濃く反映されているらしく、そういう意味では彼の「原点」に立ち返った初期衝動的な曲といえると思う。

前曲と同じくかつてのようなインモラルな言葉は控えめだが、その分過ぎ去った過去の眩しさや瑞々しさが際立っており、激しさと切なさが入り乱れる銀杏の根本こそ変わっていないものの、これまで以上に風通しの良さがある。アウトロで急にレディオヘッドぽくなるところが好きです。

 

3.大人全滅

銀杏BOYZの前身であるGOING STEADY時代に発表された「DON'T TRUST OVER THIRTY」のリメイク。実際に「OVER THIRTY」…というか「OVER FORTY」になった峯田の声には、あの頃には出せなかった重みがある。《どうして僕は生まれたの どうして僕は死んじゃうの》と噛み締めるように歌う冒頭は、「死」が以前よりよりずっと身近になっていることへの実感が色濃く出ているように感じる。

中盤からはガラリと曲調が変わり、原曲を彷彿とさせる開放的なサウンドに。原曲が出てから20年、時代も人も大きく変わったが、それでも色あせることのないパンクロックの美しさ、カタルシスがそこにある。

 


銀杏BOYZ - 大人全滅

 

4.アーメンザーメンメリーチェイン

これまで曲の中で様々な「別れ」を描いてきた峯田が、「親友の死」という絶対的な別れに直面したことで生まれた渾身の1曲。最初に聴いた時、「東京」や「銀河鉄道の夜」に匹敵する新たな名曲が生まれたと思ったし、今の銀杏がここまでの曲を出してくれたことが、素直に嬉しかった。

銀杏BOYZの描く「愛」は、常に「終わり」と隣り合わせになっているように思う。永遠に続くような尊いものではなく、いつかどんな形であれ崩れ去ってしまうもの。そんな不完全なものであることを知っていながらも銀杏はずっと「君への愛」を歌ってきた。《もうきみのこと好きなんかじゃないよ 愛しているだけ》というサビのフレーズの中には、これまで銀杏が歌ってきた優しさと愚かさがぐちゃぐちゃに混ざった愛情表現が、「死」という絶対的な別れの前でより生々しい輝きを放っている。

 

続きは来月のどっかで!