2022年1月
筆者の中で空前のGRAPEVINEブームが発生。
大学時代、先輩にオススメされて聴き始めたGRAPEVINE。新譜は毎作チェックしていたし、ライブにも足を運んでいたし、一応ファンの1人ではあった。
しかし今回のブームの波はかなり大きい。これまで聴いてこなかった過去作(カップリング集含む)を片っ端から聴きあさり、ブーム開始後2週間ほどで全アルバムを制覇。割とマジで頭の中でずっとバインが鳴り止まない生活を送っている。こんな感覚は久しぶりだ。
正直、とっつきやすいバンドではない。演奏にしても歌にしても、かなり込み入ったことを平然とした顔でやるような人たちである。
スピッツやミスチルを全世代に好まれるカレーとするなら、GRAPEVINEは牡蠣。良いのはわかるけど若干とっつきにくくわかりやすい味でもない。その分一度ハマればしばらく抜け出せなくなる中毒性を帯びている。
今回は「GRAPEVINEを聴いたことない人にバインを勧めるなら…?」という視点で4枚のアルバムを選んだ。まだ聴けていない人、興味はあるけどきっかけを掴みあぐねていた人は、この辺りから聴くと入り込みやすい…と思う。
それではどうぞ!
1.From a smalltown(2007)
個人的に【ギターロックバンド・GRAPEVINE】の最高傑作だと思う1枚。サビのロングトーンが痛快な1曲目『FLY』を筆頭に、他作品と比べ全体的に「開けた」印象が強く、シンプルなバンドサウンドのかっこよさ、美しさに集中できる。
特にR&Bとロックが緻密に混ざり合った『インダストリアル』以降の後半の畳み掛けが凄い。心を全力で揺さぶるバンド屈指の名バラード『指先』、感傷に浸る間もなくロックチューン『FORGE MASTER』をガツンと食らわせ、大人なラブソング『棘に毒』がシックに鳴り響く。
押韻やリフレインを多用することで、(彼らにしては)キャッチーな曲が目立っているのも、本作の聴きやすさに拍車をかけている。
まあ聴きやすくて良いなぁ〜とのんきに構えていると、最後の最後に本作のカオスな部分を一手に引き受けるような怪曲『Juxtaposed』でドン引きするかもしれないけど…そこはご愛嬌。むしろこの曲があるおかげで、比較的ストレートな曲が多いなかでも彼らの「普通じゃなさ」もしっかり味わえる作品になっている。
2.イデアの水槽(2003)
『smalltown』が光の傑作なら、こちらは闇の傑作といったところか。全体的にシリアスで退廃的な空気が漂うが曲の多彩さは『smalltown』に引けを取らず、ガレージ色やや強めのバンドサウンドがクール。世の中を斜に構えて見ている捻くれたヤツにはまずこれを勧めよう。
1曲目に据えられた攻撃的なプログレ『豚の皿』が衝撃的。先行シングルにもなった『ぼくらなら』『会いに行く』の優しいメロディが束の間の休息を与えてくれるが、全体を通して幾度も曲のテンションが乱高下する情緒不安定な作品。
極め付けはアルバムのラスト2曲を飾る『公園まで』から『鳩』への流れ。公園で遊ぶ娘を見守る父親の視点から、群がる鳩を嘲笑の目で見るやさぐれた男の視点にガラッと切り替わる様子は、初めてだとかなり困惑する。
おかげでかなりアクの強い後味が残るが、その強烈な2面性に綺麗なだけじゃない人間の生々しさが現れているようで面白い。
歪な形をした数々の石が、奇跡的なバランスで組み合わさっているような1枚。有名曲だけでははかり知れない奥深いバンドの魅力に触れることができる。
3.Lifetime(1999)
90年代後半の日本のロックカルチャーを象徴する紛うことなき傑作。バンドの人気を押し上げた2大巨頭『光について』『スロウ』が収録されているほか、有志の人気曲投票で1位を獲得したこともある『望みの彼方』なども収録されており、バンドにとってもファンにとっても思い入れの深い1枚。
3枚目でありながら卓越したメロディーや文学的な歌詞は既に確立されており、同時代の若手バンドと比べても圧倒的に老成した雰囲気がある。
一方でバラエティ度は少し低め。バンドのダイナミズムも実験的なアプローチも、のちにリリースされた作品の方がずっと濃度が高い。後年の自由な音楽性を掴むまでの過渡期にあるといった印象だ。
そのためこの作品を薦めようとすると自分の心が「いやでもこのアルバムでは見せてないカッコいい一面も彼らにはいっぱいあるんだよ…ぶつぶつ…」とオタクっぽいことを言ってしまいたくなる。せっかくならもう1枚別のアルバムとセットで渡したいかな。
4.ALL THE LIGHT(2019)
ここ最近リリースされた中では、個人的に1番聴き心地の良さを感じられる作品。
オープニングを飾るアカペラ曲『開花』や、エレキギターの弾き語りから始まる『こぼれる』などチャレンジングな精神は健在。一方でキャリアを重ねてきたからこその安定感が合わさることで、初めて聴く人も、ずっと聴いてきた人も安心できる1枚になっている。
またどことなくこれまでバンドが積み上げてきたものの集大成的な一面もある。独自路線を貫き続けた自らの姿をマイナーな鳥に託した『ミチバシリ』や、過ぎ去りし日々に思いを馳せつつ、改めて今の自分を俯瞰する『Era』など、これまでの道のりや今のバンドへの想いと改めて向き合うような曲が印象的(ぶっちゃけデビュー20周年イヤーに作られた前作『ROADSIDE PROPHET』よりも周年感が強い)。
そしてそんな作品のラストを飾る『すべてのありふれた光』がとてつもない名曲。代表曲『光について』の続編、というかアンサーソングのような趣もあり、彼らが幾度も歌ってきた「光」と真正面から向き合った重要な曲だ。
過去の自分自身を含めた聴く人全てを優しい光で包んだ果てに放たれる《君の味方ならここで待ってるよ》という最後のひと言が、長い歴史を重ねた今歌うからこそ強く重く響く。
ベスト盤とは違う意味合いで、彼らのこれまでの歩みを包括できるような1枚。「GRAPEVINEってどういうバンド?」と聞かれた時に、直近のアルバムから薦めるならこの作品かなぁと思う。
ほかにもアルバムの構成がピカイチの『sing』(2008)や、レーベルを移籍し心機一転作られた充実作『Burning tree』(2015)も個人的にはオススメ…こうやってみると名作ばっかりだな…!
正直なところ、この記事を見た人が上に挙げたアルバムを聴いてすぐにGRAPEVINEにハマる必要はないと思う。事実筆者は全てのアルバムを聴き込めるようになるまで5年かかった。
たとえ最初はピンと来なくても、何年かのちにふとしたタイミングで琴線に響いてくることもある。そんな音楽のロマンを体現し続けている稀有なバンド、それがGRAPEVINEなのだ!