6.アンチェイン
歌い出し、Aメロのリズム感や詞の乗せ方に甲本ヒロトの息吹を感じずにいられなかった。ザ・クロマニヨンズの「シンプル」を極限まで突き詰めたロックンロールは、今作のThe Birthdayのモードと共通しているところがあると思う。
個人的にかなりお気に入りの1曲。爽やかな曲調ながら、《神様のなれの果て》というフレーズから滲み出るドライな空気にチバらしさが溢れている。
7.晴れた午後
穏やかな曲…と思いきや、Aメロ中盤からテンポが急変。雨上がり、晴れ間が見えた瞬間に勢いよく外に飛び出すかのような、疾走感あふれるパンクロックとなっている。
性急なエイトビートとシンプルなコードストロークは、直接のルーツであるオールドパンクはもちろん、2010年代のロックバンドであるCloud Nothingsにも通じるところがあり瑞々しさを感じた。一方その裏では静と動を何度も行き来するフジイのリードギターが曲にうねりを与えており、ストレートなパンクロックが下地にありながら、キャリアを重ねたバンドの底力が見える曲だ。
8.スイセンカ
煌びやかなクリーントーンのギターが映えるバラード。柔らかな光に包まれたようなメロウな雰囲気は、どことなくoasisの『Don't look back in anger』『Live forever』辺りを彷彿とさせる。
古い映画のワンシーンを切り取ったような歌詞も印象深い。「遊牧民と鷹の関係性」についての会話、海辺で寝そべる彼女、車に投げつけたコーヒー…明確なストーリーがあるわけではないけれど、歌詞になってない「余白の部分」に物語を想像してしまう、そんな曲だ。
9.ショートカットのあの娘
説明不要!ライブで盛り上がること間違いなしのハードコアパンク!《言葉の幻想はもう終わった》というフレーズが示す通り、言葉で説明できない強烈なエネルギーの塊をぶつけてくるような曲だ。
多くの人が指摘していたが、ロンドンパンクの大御所The Damnedの『Love song』に似ている。特に最初のベースのフレーズはオマージュと言ってもいいくらい。前作収録の『DISKO』同様、パンクへの愛情に溢れたナンバー。
10.ギムレット
凄い曲だ。この不安と憎しみが渦巻く時代に、《すげーたくさんのたくさんの愛があんのよ 絶滅なんてしない すげー小さな愛が》と歌えるチバの瞳のなんと美しいことか。
この曲で歌われる「愛」は現実逃避でも平和ボケでもない。《人間は結局この星の敵になっちゃったけどさ 人間を創ったのはやっぱりこの星なんだって思いたいよね》というフレーズがそれを物語る。人間は愚かでちっぽけな存在だけど、自分も同じ人間としてそこに希望を見出したいという切実な祈りこそが、この曲のテーマになっている。
《小さな愛だ》と何度も繰り返す彼の歌声は、「愛しあってるかい?」と何度も問いかけたロックンローラー、忌野清志郎の想いを間違いなく受け継いでいる。本アルバムのタイトル「サンバースト」を象徴するような、優しい光を放つ曲だ。
11.バタフライ
緩やかなミドルテンポのナンバー。アルバム最後のということもあってか、肩の荷を少し下ろしたようなリラックスした曲だ。真夏のリゾートの光景を描いた鮮やかな歌詞も曲によく合っている。
しかしそれだけでは終わらない。
《ナイフを持ったその激情は 終わらないだろう
ナイフ持ったその激痛は 消えないだろう》
夢のような景色を歌いながらも、その瞳は錆び付いていないことを示すラスト2行。どことなくブルーハーツ『少年の詩』を思い出すこの言葉は、尖った感性を抱きしめて転がり続ける意志表明のようにも聴こえた。
ここ最近のアルバムとは少し毛色が違う作品になっていると思う。制作に時間を費やす中で研ぎ澄まされた演奏は、「緊張と緩和」を何度も繰り返す繊細さを持っている。
しかし根底にある「強さと優しさ」、そして「愛」はこれまでと何も変わっていない。雲間から地面に差し込む太陽光を意味する『サンバースト』。その言葉通り、不穏な空気に包まれたこの時代を微かに照らす光のようなアルバムだ。