ロックンロール戦線異常あり

好きなものをつらつらと

「君が世界のはじまり」感想(ややネタバレあり)

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「ロックンロールは君の悩みを解決しない、ただ悩んだまま踊らせる」

そんなピート・タウンゼントの言葉をそのまま体現したような映画だった。

 

希望と絶望を爆発させる夜が幕を開ける──。
大阪の端っこのとある町で、高校生による父親の殺人事件が起きる。その数週間前、退屈に満ちたこの町では、高校生たちがまだ何者でもない自分を持て余していた。授業をさぼって幼なじみの琴子と過ごすえん、彼氏をころころ変える琴子は講堂の片隅で泣いていた業平にひと目惚れし、琴子に憧れる岡田は気にもされず、母親に出て行かれた純は東京からの転校生・伊尾との刹那的な関係で痛みを忘れようとする。皆が孤独に押しつぶされていたその夜に、事件は起きた──。

(公式サイトより引用)

 

ふくだももこ作の小説「えん」「ブルーハーツを聴いた夜、君とキスしてさようなら」の2作品を、作者自身がメガホンを取りひとつに合わせた、「コナンvs怪盗キッド」「デビルマンvsサイボーグ009」のような本作(ちょっと違うか)。大阪の郊外を舞台に、家族や恋愛、将来について簡単には割り切れない問題を抱えた少年少女たちが、一つの殺人事件をきっかけに偶然の邂逅を果たし、自分と向き合う様が描かれている。

 

物語に寄り添うのは、ブルーハーツの名曲「人にやさしく」。もちろん知っている曲だった、ロックの土俵に「がんばれ」というフレーズを初めて持ち込んだ曲、そのあまりの衝撃に、スピッツの草野マサムネが敗北感を覚えたという曲。サビの「がんばれ」がなにかとフィーチャーされ、自分もそのイメージを持っていたが、この映画を通してすっかり頭から抜け落ちていた事実に気づく。

ああそうだ、この曲は「気が狂いそう」という言葉で始まるんだった。

この曲はただの応援歌じゃなくて、自分の中にある闇や絶望に向き合いながらそれでも目の前の「あなた」に「がんばれ!」と叫び続ける闘いの歌だったんだ。そんな気づきとともに迎えた映画終盤、夜のショッピングモールで縁たちがそれぞれの思いを胸に「人にやさしく」を演奏し感情を爆発させるシーンは、曲に込められた強烈なメッセージが行き場のない思いを抱える少年少女たちを豪快に抱きしめているように見えた。

 

結局この映画のテーマになっているのは、「人を思いやる気持ちを忘れてはいけない」というものすごくシンプルなメッセージだ。だがそれを分かっていても、人は簡単に人を許せないし思いやることもできない。その難しさを飲み込んだ上でそれでもなお人に寄り添おうとする、愚かさと隣り合わせの美しさをありのまま描いた作品だと感じた。さらに言えばこの映画は、ただのブルーハーツ賛美映画ではなく、「人にやさしく」の中にある世界をそのまま映像化した作品だった。

 

登場人物たちが抱える問題は決して解決したわけではない、縁と琴子の微妙なバランスの関係はこれからも続くし、業平の家族問題は父親を施設に預けてからも終わらない。伊尾は義母との関係を簡単に断切れはしないだろうし、純は父親への複雑な思いを抱えながら、伊尾と向き合い続けるだろう。映画内の時間では、彼らはあくまで「もがきながらも前に進む選択」をしただけに過ぎない。だがその小さな一歩は、映画に清々しい後味を残残すには十分だった。劇場を出たあと、しばらくは頭の中で「人にやさしく」が爆音で鳴っていて妙にハイな気分になった。派手なアクションも劇的なストーリー展開もないけれど、いっぱしの男のテンションを上げるには十分すぎる作品だった。

 

さてさて、ここまではテーマ曲「人にやさしく」を中心に書いたがここから先は別の話、というかおまけ。

 

 

松本穂香、めっっっちゃ可愛い

昨年の主演作「わたしは光を握っている」を観に行った時も感じたが、少し影のあるキャラクターを演じるのが抜群に上手いと思う。だがそんなことよりとにかく可愛い、そして横顔が美しすぎる。ぶっちゃけこの映画を観てすぐは、「『人にやさしく』めっちゃいい曲やん」「松本穂香可愛すぎか?」のふたつくらいしか感想が浮かばなかった。そのくらい、今作における彼女の存在は大きい。

そして演技初挑戦となるニトロデイのVo.小室ぺいも良かった。演技というよりは自然体で振る舞っているような感じ、多分リアルでこんな人なのかもしれない。峯田和伸や古舘祐太郎のようにバンドと役者の二足の草鞋をはく存在になれば面白いと思う。彼が歌う「人にやさしく」はヒロトのような熱さはないけど、瑞々しさと生々しさがあって良かった。ニトロデイ、これからちゃんと聴こう。

 


NITRODAY "人にやさしく" (Official Music Video)

 

映画の感想書くの、結構難しいのだけれどこれからも機会があれば書いていくつもりです。よろしくお願いします。おわり。