w.o.d.およそ2年ぶりの新作『LIFE IS TOO LONG』。かつてない混乱に陥った時代の空気を確かに捉えつつ、その根底は揺らぐことなく「お!今回もやってんねぇ!」という安心と信頼の爆音が詰まっている。
一方でサウンド、歌詞、メロディー、どこをとってもこれまでよりずっと多様な表情が見られ、w.o.d.がバンドとして確かな成長を遂げていることもはっきりと感じる。今回は全曲レビューという形で、「衝動」だけでは説明しきれないそれぞれの曲の魅力に入り込んでいく。
1.Hi,hi,hi,there.
初っ端のベースの轟音だけで「これこれぇ!」となれる1曲目。2分にも満たない短い曲だが、聴きどころはたくさん。特にこれまで言いそうで言わなかった「Fワード」がついに飛び出す瞬間は感動的ですらある。
元々はニュー・オーダーを意識したダンサブルなパートを入れる予定だったらしく、その名残りとして歌詞の頭文字をローマ字にして並び替えると彼らの代表曲である『Blue Monday』という言葉が表れる。そういう遊び心が好きなのよ…
2.モーニング・グローリー
oasisを彷彿とさせる曲名、イントロはツェッペリン、Aメロはケミカルブラザーズ…自らが影響を受けたサウンドを躊躇いなく曲の中にぶち込んでいく、貪欲な遊び心が顕著に表れた1曲。エロスとバイオレンスが交錯するMVも何かしらの映画からの影響下にあるのは間違いない。
重要なのは沢山のオマージュ要素をはらみながらそれらをうまく調理し、「w.o.d.のサウンド」にしてしまうぶっ飛んだセンス。元ネタを知ってニヤリとするのもよし、圧倒的な爆音に存分に打ちのめされるもよし。楽しみ方は人それぞれ。
3.楽園
力強いドラムビートに始まり、そのままサイケデリックなサビへみるみる突っ込んでいく。リスナーをロックンロールの混沌へ引き摺り込んでいく曲展開が最高。
SOSの声が届かない絶望感に打ちひしがれながら、なおもあがき続けるサマを描いた歌詞、そしてそれを支える爆音は、圧倒的な風速を伴ってコロナ禍に生きる僕らの不安に食らい付いてくる。不安を消し去るわけではないが、先の見えない暗闇の中でも踊り続けられるエネルギーをくれる1曲。
4.BALACLAVA
《嘆いたって何も変わらない》《狼狽してももうしょうがない》というフレーズに表れた、「現実を受け止めろよ」と挑発するようなメッセージは前曲と共通している。ただ『楽園』が絶望の中で抗おうとする反抗心を歌う一方で、こちらは「どうせ戻れないならやるしかない」という一種の「諦め」が曲の主人公を突き動かしているように感じた。そこから生まれる退廃的な空気感からは、彼らの活動の軸であるNIRVANAが作り上げたグランジの精神をひしひしと感じる。
曲名は英語で「目出し帽」の意。銀行強盗の姿を歌った曲らしい。アウトローな世界に飛び込んだ人間の極限の心理状態を描いた歌詞は、これまたメンバーが敬愛するタランティーノ作品からの影響かもしれない。
5.煙たい部屋
前曲までの激流のような勢いから一転、乾いたギターカッティングが印象的なミドルチューン。騒々しいパーティーの終わりに、ベランダで1人酔いを覚ましているような、気怠さと空虚さが入り混じった空気に包まれている。
いつか「終わり」がくることを知りながら、刹那の享楽に身を任せる自分をどこか達観するような歌詞は、若者が少しずつ大人の感覚に染まっていく様子を描いているように感じる。さらにいえばこれまでずっと初期衝動に突き動かされてきたバンドが、階段を一段上がったこともまた暗示しているのかもしれない。
続きは次回です。